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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年3月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <大不況脱出にはGDP比2%の財政規模で大丈夫か?>

    予測のアウトライン
    関西社会経済研究所(KISER)は2月22日、10-12月期GDP1次速報値を織り込んだ第77回景気予測を発表した(HP参照)。予測結果(ベー スライン)を要約すれば、2009-10年度の実質GDP成長率を-3.7%、+1.5%と見込んでいる。ここでいうベースラインは、予測期間において景 気対策が含まれないケースである。
    ベースラインでは、日本経済は2008年4-6月期から2009年4-6月期まで5期連続のマイナス成長を経験して、7-9月期に小幅のプラス成長に転 じるものと予測している。この間、景気(実質GDP)のピークから底までの落ち込み幅は約8%である。ピークから約8%の需給ギャップが発生するとみてよ い。
    麻生内閣の経済対策の内容
    景気対策については不確実性が高いが、現時点での情報で麻生内閣の3次にわたる景気対策(いわゆる3段ロケット)の効果を推計してみよう。金額でみる と、(1)第1次補正予算は11.5兆円程度、(2)第2次補正予算案は27兆円程度、(3)12月19日閣議決定の「生活防衛のための緊急対策」は財政 上の対応10兆円程度と金融面の対応33兆円程度の計37兆円程度(「生活対策」のための財政措置6兆円除く)の規模である。総額75兆円(財政措置12 兆円程度、金融措置63兆円程度)が景気対策にあてられる。真水である財政措置は対GDP比では2%程度である。(下図参照。総理官邸HPより)

    景気対策の効果を推計するために、KISERモデルでは二次補正、21年度予算のうち事業規模のはっきりする4つの経済政策の効果を検討した。具体的に は、(1)定額給付金(2兆円)、(2)住宅ローン減税(3,400億円)、(3)法人企業税制(4,300億円)、(4)その他財政支出(2.54兆 円)である。 いずれも住宅ローン減税を除き、2009年4-6月期から実施されるものとする。住宅ローン減税は1-3月期から遡及して実行されると想定している。モデ ルにおける操作は以下のようである。

    政策変数の設定:景気対策シミュレーション  規模  時期
    ①定額給付金  民間最終消費支出関数の定数項修正  3,200億円  2009年2Q
    ②住宅ローン減税  民間住宅投資関数における金利の引下げ  0.14%ポイント  2009年1Q以降
    ③法人税減税  法人税率の引下げ  0.7262%ポイント  2009年2Q以降
    ④その他の財政支出  政府最終消費と公的資本形成を増加  2.54兆円  2009年2Q、3Q
    ⑤景気対策  政策①から④の同時実施

    景気対策の効果:2009年度への影響
    現時点で想定される景気対策を反映したシミュレーションによると、2009-10年度の実質GDP成長率はそれぞれ-2.9%、+0.6%となる。すな わち景気対策(シミュレーション?ベースライン)は2009年度の成長率を0.8%ポイント引き上げる効果を持つことになる。2009年度経済に与える個 別対策の効果を見ると、(1)定額給付金は、実質GDPを6,450億円、0.12%押し上げる。 (2)住宅ローン減税は、実質GDPを2,120億円、0.04%引き上げる。(3) 法人税減税により、実質GDPを2,570億円、0.05%上昇させる。(4)その他財政支出(2.54兆円)は、実質GDPを4.191兆円、 0.80%の引き上げることになる。合計で実質GDPを4.7兆円、0.9%引き上げることになる。
    財政措置GDP比2%の合理的根拠
    現在までに想定できる麻生内閣の景気対策は、真水規模5.31兆円で2009年度の実質GDPを0.9%押し上げることになるが、問題は個別の政策効果 である 。われわれのシミュレーションから得られる含意は、政策をより効果的にするには、定額給付金のようなメニューではなく、より直接的な財政支出が必要である ことを示唆している。KISERの調査によれば、2兆円の定額給付金は3,200億円の追加的消費しか生み出さず、実質GDPを0.12%引き上げにとど まる。一方、2.54兆円がより直接的な支出に向かうと実質GDPを0.8%引き上げる。両者の政策効果の差は明瞭である。すなわち、高い乗数効果が期待 でき、中期的にも生産力効果を持つ環境インフラ、エネルギー関連に、より直接的な財政支出が振り向けられるべきということである。
    最後に、簡単な試算を示そう。第1の試算は2009年度にマイナス成長から脱却するためにはどの程度の財政規模が必要か。もし財政がより直接的な支出に 振り向けられたならば、約11.7兆円[直接的な財政支出の規模(2.54兆円)×マイナス成長脱却に必要な成長率(3.7%)/景気対策による実質 GDP成長率上昇(0.8%)=必要な財政支出規模(11.7兆円)]の規模が必要となる。
    第2の試算は2008年1-3月期のピークから2009年4-6月期の底まで8.0%の需給ギャップの解消には、同様に25.4兆円[2.54兆円×(8.0%/0.8%)]が必要となる。
    日本経団連は25兆円の財政出動を提唱しているが、それなりの根拠があるといえよう。またG20では米国は各国にGDP比2%の財政支出を要請したとされているが最低限の線として十分な根拠を持つといえよう。

    日本
    <1-3月期実質GDP成長率は前期を上回る2桁のマイナス>

    3月16日の超短期予測では、2月の物価関連の一部のデータと1月のほとんどの月次データが更新された。また10-12月期のGDP2次速報値が追加さ れた。2次速報値では、実質GDPの伸び率は、1次速報値の-12.7%(前期比年率)から-12.1%(同)へと小幅の上方修正にとどまった。成長率の 上方修正の主因は実質民間在庫品増加が上方修正されたことによる。決して明るいニュースではない。
    データを更新した結果、支出サイドモデルは1-3月期の実質GDP成長率を前期比-4.1%、同年率換算-15.5%と予測している。この結果、2008年度成長率を-3.1%となろう。また4-6月期の成長率を前期比-1.3%、同年率-5.3%と見込んでいる。
    実質成長率(前期比-4.1%)への寄与度は、内需は-2.0%ポイント、純輸出は-2.1%ポイントである。民間需要では、実質民間最終消費支出は前 期比-0.4%、実質民間住宅は同-6.8%、実質民間企業設備は同-10.1%と、いずれもマイナスの伸びを予測している。公的需要では、実質政府最終 消費支出は同+0.1%、実質公的固定資本形成も同+0.1%と小幅のプラスを見込んでいる。外需では、実質輸出は同-19.2%、実質輸入は同 -6.2%といずれも低調である。
    一方、主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を同年率-13.2%と予測している。 4-6月期については同-7.4%と予測している。
    この結果、支出サイド、主成分分析モデルの平均でみると、実質GDP成長率(前期比年率)は1-3月期-14.3%、4-6月期は-6.9%といずれも マイナス成長が予測されている。現時点では、1-3月期の経済は10-12月期を上回る2桁のマイナス成長になろう。4-6月期はマイナス幅が縮小する が、依然として厳しい状況にある。ただ1-3月期に大規模な在庫調整が進展すれば、年後半にはマイナス成長から脱却できる可能性がある。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    今の景気を判断するのに実質GDPのみに頼ると、現実の景気の深刻さをも見間違える。グラフに見るように、2009年1-3月期の実質GDP伸び率は2月 2日まで急速に悪化し、その後2月20日まで回復傾向にあった。しかし、2月20日以降、再び景気は下降し始めたものの、3月13日の超短期予測では実質 GDP伸び率を支出サイド、所得サイドからそれぞれ+0.1%、-1.8%と予測し、その平均値は-0.9%となっている。
    確かに、1?3月期もマイナス成長を予測しているが、約-1%の落ち込みではそれほど深刻な経済状況とはいえないであろう。しかし、これは米国、そして 海外諸国の深刻なリセッションから米国の実質輸出が前期比年率で40%、実質輸入が50%と大幅に下落すると予想されているためである。景気を実質総需要 (=GDP+輸入)からみると、超短期モデルはその伸び率を-10%と予測している。また、実質国内需要(=GDP-純輸出)と国内購買者への実質最終需 要(GDP-在庫増-純輸出)の伸び率はそれぞれ-5.5%と予測されている。このように、経済をGDPとその他のアグリゲート指標で見ることによって、 今の景気状況は-1.0%から-10.0%と非常に幅広いものになることを理解しておくことが重要である。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年2月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <日本経済は底割れするのか?-中国・米国のデータからは外需回復の兆しも‐>

    リーマン・ショック以降、鉱工業生産指数の落ち込みは未曾有のものである。2008年10-12月期の同指数の落ち込みは前期比-11.9%と戦後最悪を 記録した。図からわかるように、落ち込み幅は第1次石油危機の時期を大きく上回っている。かつてないスピードと下落幅である。まるで金融指標の変化(株価 のフリーフォール)を見ているようである。生産市場の急激な変化は労働市場に負荷を与え始めてきている。まずは非正規労働者の解雇から始まり、大幅な生産 調整が続けば、次に正規労働者の調整につながることは容易に想像できる。このような急激で大幅な落ち込みは何を意味しているのであろうか。
    まず(1)今回の生産の落ち込みが、世界同時不況と関連していることである。次に(2)企業の売上減少に対する対応が過去に比べてすばやくなったことである。
    内閣府によれば、最近の景気の山は2007年10月である。景気後退後1年も経て急激に落ち込むというのは世界経済の同時不況が大きく影響している。それ は輸出市場の大幅落ち込みを意味するから、成長を輸出に大きく依存している国にとってはその影響は大きい。韓国やシンガポールでは10-12月期の生産が 2桁の落ち込みを経験していることからもよくわかる。
    企業の需要の変化に対する対応が早くなってきた点を見ていこう。出荷と生産のずれは在庫となって表れるが、その対応の変化の時系列、すなわち在庫循環図 (在庫指数と出荷指数の相関図)を見れば一目瞭然である。以下に、鉱工業、電子部品・デバイス工業、輸送機械工業(除く船舶・鉄道)の在庫循環図(四半期 ベース)を示してある。鉱工業全体で見れば2008年10-12月期は第4象限に、すなわち意図せざる在庫の積みあがり局面にあることがわかる。しかし業 種別に在庫調整を見ると、異なる局面が表れてくる。例えば、電子部品・デバイス工業は全体と同じ局面にあり、足元の需要(出荷)減が急激であり在庫が大幅 に積みあがっていることがわかる。一方、輸送機械工業では、足元は第3象限にあり出荷の大幅減に在庫調整が進んでいる局面にある。
    急激な鉱工業生産の落ち込みを反映して、10-12月期の経済成長率は2桁のマイナスになった。このためマーケットは悲観的なムード一色である。近視眼的 な見方をすれば、日本経済は底割れするのではないかと。しかし、上で見たようにすべての業種で意図せざる在庫が積み上がっているわけではない。日本のリー ディング産業の中には、在庫調整がかなり進捗している業種もある。問題は全体としていつ在庫調整が進むかである。答は外需(海外市場)の回復の時期次第と いうことになるが、中国では4-6月期に在庫調整が終わるとも予測されているし、米国のISM新規受注も回復の兆しを見せている。これらはよいニュースで ある。自動車のような産業では、海外の需要が持ち直せば国内生産はすぐに回復することを示唆している。急激な経済の落ち込みは、急激な回復の可能性がある のである。16日に発表された10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-12.7%と悲惨な結果になったが、それは過去の経済パフォーマンスである から、悲観色をいっそう強める必要はない。

    日本
    <1-3月期実質GDP成長率は2期連続で2桁のマイナス?>

    米国と中国の10-12月期実質GDP成長率の発表(1月)についで、2月13日にEU(27ヶ国)、16日に日本の実績が発表された。10-12月期の EUの実質GDP成長率は前期比-1.5%、日本のそれは同-3.3%と大幅なマイナス成長となった。日本の実質成長率は年率換算で-12.7%となり、 3四半期連続のマイナス成長。また減少率は第1次石油危機時の1974年1-3月期の年率-13.1%につぐ35年ぶりの大きさとなった。この結果、 2008暦年の実質成長率は-0.7%と9年ぶりのマイナス成長となった。
    10-12月期の実質成長率(前期比-3.3%)への寄与度を見ると、内需が-0.3%ポイント、純輸出が-3.0%ポイントとなっている。世界同時不況 の影響で輸出が過去最大の落ち込みとなったことが影響している。たしかに第1次石油危機時には今回を上回るマイナス成長を記録したが、74年4-6月期に はプラス成長に戻っている。今回の問題は先行き回復の兆しが見えないことである
    10-12月期GDP統計を更新した超短期(支出サイド)モデルによれば、2009年1-3月期の実質GDP成長率を前期比-2.4%、同年率換算 -9.4%と予測している。2期連続で2桁のマイナス成長となる可能性が高い。この結果、2008年度の成長率は-2.8%となろう。
    1-3月期の実質成長率(-2.4%)のうち、内需が-0.5%ポイント、純輸出が-1.9%ポイントと輸出減が内需減につながる悪循環となっている。内 需のうち、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%増加し、実質民間住宅は同5.3%減少する。実質民間企業設備も同3.0%減少する。実質政府最終消費 支出は同横ばい、実質公的固定資本形成は同1.3%減少する。財貨・サービスの純輸出は引き続き縮小する。実質輸出は同10.6%減少し、実質輸入は同 2.9%増加するためである。
    4-6月期の実質GDP成長率についても、内需拡と純輸出は引き続き縮小するため、前期比-1.3%、同年率-5.1%と予測している。
    内需のうち、実質民間最終消費支出は前期比+0.2%増加し、実質民間住宅は同2.2%減少する。実質民間企業設備は同1.0%減少する。実質政府最終消 費支出は同0.6%増加し、実質公的固定資本形成は同1.4%減少する。純輸出のうち、実質輸出は同4.9%減少し、実質輸入は同3.4%増加すると予測 している。
    日本政府は先進国で一番早く不況から脱出すると宣言したが、逆に一番遅くなる可能性が高まっている。政治的混乱でタイムリーな財政政策は期待薄であり、結 局、海外市場の回復に依存せざるをえないからである。今こそ政治休戦をしてでも、成長戦略を意識した経済政策が望まれる。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <最悪期を過ぎた米国経済?>

    2008年10-12月期実質GDP成長率(速報値)は前期比年率-3.8%となり、マイナス幅は市場コンセンサス予測(-5.4%)や超短期モデル(支 出サイドモデル)の予測(-4.9%)より小幅となった。超短期モデル予測のマイナス成長が政府公表値より大きかった理由は、輸入を過大に予測したことに ある。実際、商務省経済分析局(BEA)は12月の名目輸入を前月比で5.4%減少すると仮定した一方、超短期モデルはARIMA(時系列モデル)から 6.9%の増加になると予想した。そのため、超短期モデルは実質輸入(NIPA(国民所得生産計算)ベース)を1,110億ドルも過大に推定した。
    今回の超短期モデル予測ではBEAの仮定した12月の名目財輸出入を実績値として用いている。また、連邦政府の雇用者所得以外の消費支出を推定するのに、 超短期モデルでは、連邦政府支出をブリッジ方程式の説明変数として使用している。ところで、TARP(Troubled Asset Relief Program: 不良債権救済プログラム)からの2,430億ドルの資産購入(2008年10-12月期)は、GDP推計には計上されないことから、その分を10-12月 期の連邦政府支出から差し引いて、連邦政府の雇用者所得以外の消費支出を推定している。
    その結果、今週の超短期予測では2009年1-3月期の実質GDP成長率(年率換算)を支出サイドから-1.0%、所得サイドから+0.4%と予測してお り、少なくとも現時点では米国経済の最悪期は過ぎたものと考えられる。しかし、今期の経済成長率も2008年7-9月期、10-12月期と同じようにマイ ナスになる可能性は十分に考えられる。オバマの景気刺激策が緊急に実施されることが望まれるが、減税政策が少なく景気刺激パッケージ(Stimulus Package)というよりも民主党議員に都合のよい支出パッケージ(Spending Package)の色合いが濃くなっている。そうなると、景気刺激策が十分でないにもかかわらず、政府の累積債務が膨張するだけとなる。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年1月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <2009年度の日本経済・関西経済>

    年末年始にかけて、関西社会経済研究所では、リーマン・ショック以降の急激に変化する足下の状況を織り込み、昨年11月に発表した予測を改定するとともに、新たに関西経済の予測を行った。(予測改定の詳細は研究所HPに掲載)
    2009年度の日本経済
    今回の景気回復(2002年2月-07年10月)のメイン・エンジンは純輸出であり、かつ戦後の日本経済の景気回復局面でも最も寄与度が高い項目であっ た。今や成長のメイン・エンジンが逆回転し始めている。これを印象付ける象徴的なイベントは、2008年11月の貿易統計と鉱工業生産指数の落ち込みで あった。10-12月期の実質GDP成長率は2桁に届くほどのマイナスが予測されており、かつてない景気後退となりそうである。
    7-9月期GDP2次速報値を織り込み予測を改訂し、実質GDP成長率を2008年度-1.3%、2009年度-1.4%とした。前回(11月)予測から 2008年度は1.1%ポイントの、2009年度は1.5%ポイントの大幅な下方修正である。前回予測では捉えきれなかった、リーマン・ショック以降の急 速な経済の悪化が反映されている。
    2008年度の実質GDP成長率は前年の+1.9%から-1.3%へと7年ぶりのマイナス成長に転じる。民間需要の寄与度は-0.7%ポイントと、前年度 の+0.5%ポイントから大きく低下する。公的需要は-0.2%ポイントの寄与となり、純輸出の寄与度は前年の+1.2%ポイントから-0.4%ポイント へと大幅低下する。
    日本の主要貿易相手国のうち米国とEU経済の成長率は2009年にはマイナス成長となり、新興諸国の成長率も減速する。このため2009年度には純輸出の寄与度のマイナス幅は拡大する。
    2009年度の実質GDP成長率は-1.4%と2年連続のマイナス成長となる。民間需要の回復は期待できず、純輸出の寄与はさらに低下する。内外需の寄与 度を見ると、民間需要は前年の-0.7%ポイントから-0.8%ポイントと小幅悪化、公的需要は+0.1%ポイントとなる。純輸出の寄与度は前年の -0.4%ポイントから-0.7%ポイントへと更に低下する。
    幸いなことに原油価格や商品価格が大幅に下落しており、これが徐々に最終財価格に波及するであろう。このため、2008年度のコア消費者物価指数前年 比+1.3%となるが、2009年度は-0.4%とデフレに転じる。国内企業物価指数は同+3.6%、同-3.7%、GDPデフレータは同-0.7%、 同+0.9%と予測している。物価上昇率がプラスに転じるのは2010年度に入ってからである。
    景気回復は2010年度と見込んでいるが、景気回復が感じ取れるのは2010年後半からと予測している。2009年度の成長率の四半期パターンは一様な落 ち込みの後の回復の様相を呈さず、2008年末から2009年初にかけて経済は大がかりな生産調整が起こり、2009年央に一旦落ち着くものの、2009 年後半から2010年初にかけて再び落ち込むという、いわばダブルディップ型のリセッションを予測している。2009年度は非常にBumpy(荒っぽい) な経済となろう。
    2009年度の関西経済
    関西経済は、全国と比較して設備投資が相対的に底堅いことや、アジア向け輸出が緩やかな減速にとどまることから、昨年後半時点では、2009年度は緩やか な調整にとどまるとみていた。しかし、足下この想定には疑問符がつき始めた。2009年度の関西経済は前年度の-0.7%に続き、-0.8%と2年連続の マイナス成長となると見込まれる。
    雇用・所得環境の悪化、金融危機の深刻化を背景とした株安などから、個人消費および住宅投資のマインドは低調に推移するとみられる。企業の収益環境が厳し さを増すなか、投資意欲の低下に伴い、鈍化傾向であるものの、既に確定している大型投資が下支えとなると考えられる。近畿地区の企業短期経済観測調査をみ ても関西の投資計画は全国と比べ底堅さを維持している。ただし、パナソニックの薄型テレビ用パネル投資の約1,300億円の削減(2009年1月9日発 表)にも見られるように、今後下振れする可能性もある。
    これまで米国、EUの景気減速により、関西以外の地域では純輸出が減少し始めていたが、関西はアジア向けの割合が高く比較的持ちこたえていた。2009年 に入り、新興諸国および国内他地域の景気減速が顕著となり、タイムラグを持って関西に影響が出てきた。関西の地域別輸出動向をみると、2008年11月に は北米・EU向けよりもアジア向けの減少幅が大きい結果となっている。このような状況から、今後関西の輸出も減速していくとみられ、他地域よりも急激に悪 化するリスクがある。

    日本
    <10%近い下落が予想される10-12月期実質GDP成長率>

    今回の日本経済超短期モデル予測では、一部の12月データと多くの11月データが更新されている。最新の(支出サイドモデル)予測によれば、10-12月 期の実質GDP成長率は、前期比-2.4%、同年率-9.3%と見込まれる。前月の予測(-4.3%)から大幅の下方修正となった。
    今回の大幅下方修正を象徴的に示唆するデータは、2008年末に発表された11月の鉱工業生産と貿易収支である。11月の鉱工業生産指数は前月比8.1% 低下し、2ヵ月連続のマイナスとなった。下落幅は、政府が比較可能なデータを公表して(1953年2月)以来、最大となった。業種別に見ると、輸送機械工 業、一般機械工業、電子部品・デバイス工業等の輸出関連産業で落ち込みが大きかった。製造工業生産予測調査によると、12月の生産は前月比-8.0%、1 月は同-2.1%と予想されている。10-12月期の鉱工業生産指数は4期連続のマイナスになるのは確実で、かつてない景気後退になりそうである。
    11月の貿易収支は2ヵ月連続の赤字を記録した。輸出額は2ヵ月連続で前年の水準を下回り、下げ幅は月次統計が比較可能な1980年以来の最大(前年同月 比-26.5%)となった。輸入額も前年比14ヵ月ぶりのマイナス(同-13.7%)となった。輸出入の大幅減少は内外の市場が急速に収縮していることを 意味する。
    これらのデータを反映した12月末の超短期予測によれば、実質GDP成長率予測はそれまでの前期比年率-3%?-4%程度から、一気に同-9%程度に低下 した(図参照)。5%ポイントという大幅な予測の修正は、1993年から開始した週次ベースの超短期予測で初めての経験である。かつてないスピードで景気 の減速が起こっているのである。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.3%となる。実質民間住宅も同-5.5%と、ともに2期ぶりのマイナス。実質民間 企業設備も同-1.6%となる。一方、実質政府最終消費支出は同+0.6%、実質公的固定資本形成は同+0.5%、それぞれ増加する。このため、国内需要 の実質GDP成長率(前期比-2.4%)に対する寄与度は-0.4%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同6.1%減少し、実質輸入は同8.9%増加する。名目ベースの輸出入がそれぞれ同-15.1%、-12.1%と同程度の減少 にとどまっているが、円高の影響を受け輸出デフレータが同-9.6%と下落する以上に、輸入デフレータが円高に加え国際商品市況の急下落により同 -19.3%と輸出デフレータの下落幅を大きく上回るためである(交易条件の改善)。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-2.0% ポイントとなる。
    2009年1-3月期の実質GDP成長率については、内需拡大は小幅にとどまり、純輸出は引き続き縮小するため、前期比-1.6%、同年率-6.1%と予測している。この結果、2008年暦年の実質GDP成長率は-0.3%、2008年度は-2.0%となろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <両刃の剣: 景気刺激策と財政赤字>

    1月9日の超短期モデル予測は、2008年10-12月期の米国の実質GDP成長率を-5%?-6%と予測している。これは市場のコンセンサスより約1% 低い。また2009年1-3月期もマイナス成長が見込まれている。このようななか、1月20日にワシントンに入る次期大統領のオバマは1月8日、できるだ け速やかに景気刺激対策を議会で通過させるために、“米経済の回復と再投資計画”を発表した。景気刺激策の主な内容は次の通りである;
    ・ 3年間に代替エネルギーの生産を2倍にする。
    ・ 連邦政府の建物の75%を近代化する。
    ・ 200万戸に対してエネルギーの効率化を促進する。
    ・ 5年以内にすべての医療記録をコンピューター化する。
    ・ 学校に新しいコンピューターと技術を供給する。
    ・ 代替エネルギー供給のためのスマートグリッドの導入。
    ・ 全米におけるブロードバンドの拡張。
    オバマは更に労働者家計の95%に対して1,000ドルの減税を考えている。オバマはスピーチの中で景気刺激策の規模について明言はしていないが、約8,000億ドルと推定されている。
    一方、連邦議会予算局(CBO)は1月7日、“2009、2010財政年度の予算と経済見通し”を発表した。CBOは現在決まっている政策にのっとって予 算・経済予測をすることから、オバマの景気刺激策によるコストは考慮されていない。にもかかわらず、その内容は以下のように市場にとってショッキングな内 容であった。
    ・ 財政赤字は2009年度には1.2兆ドルにまで拡大する。GDP比率でみれば8.3%になる。
    ・ 実質GDP成長率は2009年に2.2%の下落となる。
    ・ 失業率は2009年、2010年度にはそれぞれ8.3%、9.0%にまで上昇する。
    ・ 2008年Q3?2010年Q2の期間において住宅価格は更に14%低下するだろう。
    オバマは景気刺激策による財政赤字拡大というジレンマを熟知しているため、景気刺激策を長期の経済成長の基盤に向けている。しかし、金融危機回避のために は、まだ住宅ローン貸し手のバランスシートの改善、住宅の抵当化の低減など課題が残っており、新大統領の船出は経済問題だけでも困難を極めている。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年12月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <不況の深化とセンチメントの悪化>

    9月のリーマンブラザースの破綻を契機とする世界金融危機の深化は、世界の実物経済に大きな影響をもたらしている。また、その影響が及ぶスピードはかつて ないほど急速である。日本経済にとって、主要な輸出市場である米国やEUの経済がマイナス成長に陥り、もう一つの柱である新興市場諸国の経済成長率も減速 傾向が目立ってきている。
    今月の日本経済の見通しで述べているように、最近の経済動向を要約すれば、生産の大幅減少、純輸出の収縮と特徴付けられる。今回の不況は海外発の要因が大 きく影響している。世界経済はこの間急速に悪化し、同時不況となっている。これに抗するために、主要諸国は先進国も新興国も金融緩和と財政拡大にむけて協 調しているが、これが明確な効果を生み出し、世界経済が底打ち反転することが、日本経済の回復に決定的に重要である。
    このような性格を持つ今回の不況に対して、政府の打つ経済政策はおのずと限定されてこよう。重要なのは景気の底割れを防ぐことであり、生産の大幅削減や雇 用の調整が家計の本格的な消費削減につながらないような工夫が必要となる。そこで最近の消費者や景気ウォッチャーたちのセンチメントの動向を見てみよう。
    11月の消費動向調査によれば、一般世帯の消費者態度指数は28.4となり、2ヵ月連続で過去最低を更新した。前年同月比では11.4ポイント下落して 24ヵ月連続の悪化を記録した。11月は世界経済の急激な落ち込みと輸出の収縮を背景に、国内の雇用の先行きや所得減への懸念が強く表れた結果となった。 指数を構成する4項目の意識指標はすべて前年から悪化したが、インフレ期待の低下から暮らし向きや耐久消費財の買い時判断に関する意識指標では底打ちや改 善の傾向が見られた。しかし、雇用環境に関する意識指標は21.1(前年同月比-22.0ポイント)で、悪化幅の拡大が目立った。
    また同月の景気ウォッチャー調査によれば、現状判断DIも過去最低を更新した。前年比では17.8ポイント低下し25ヵ月連続の悪化となった。指数構成指 標の1つである雇用関連DIは同26.2ポイント低下し、27ヵ月連続で悪化している。2001年10月の悪化幅40.7ポイントまで至っていないが、今 後急速な悪化幅の拡大が予想される。
    このように消費者や景気ウォッチャーたちの雇用のセンチメントは夏以降急速に悪化している。年度末にかけては生産の大幅削減の確率が非常に高くなってい る。実際、15日に発表された日銀12月短観では大企業の業況判断DIは前回調査から21ポイント悪化した。これは1974年9月調査以来の悪化幅 (-26ポイント)となっている。これから生産削減、雇用削減は避けられないであろうが、この動きが消費減退に繋がる負の連鎖を断ち切らねばならない。す なわち、消費者のセンチメントの大幅悪化を防ぐ工夫が必要である。消費者には、今回は前回のように本格的なリストラにはならないという安心感を与えるよう な政策を準備し、また、生活の安心を取り戻すため一定の生活防衛のためのセーフティーネットを充実しなければならない。11月の「今月のトッピクス」で追 加経済対策(10月30日決定)の効果をあまり評価しなかったが、今回新たに出てきた政府の経済対策のうちで、職を失った人に対する住宅支援などは評価で きる。要は消費者のセンチメントの悪化を防ぎ、生産・雇用の削減から消費の本格的削減という負の連鎖を断ち切ることがもっとも重要で、世界景気が底打ちす るまでの政策課題となる。

    日本
    <不況感が強まる10-12月期経済>

    今回の予測では一部の11月データと10月のほぼすべてのデータが更新されている。これらの動向を要約すれば、生産の大幅減産、純輸出の収縮と特徴付けられる。
    今週の超短期モデル(支出サイド)は、10-12月期の実質GDP成長率を、内需は小幅拡大にとどまり純輸出が大幅に縮小するため、前期比-1.1%、同 年率-4.3%と予測している。予測は6週連続で下方修正が続いている。この結果、2008年暦年の成長率は+0.1%にとどまろう。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.1%となる。実質民間住宅は同-4.4%と2期ぶりのマイナス、実質民間企業設備 は同+1.2%となる。実質政府最終消費支出は同+0.4%、実質公的固定資本形成は同2.0%減少する。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比 -1.3%)に対する寄与度は+0.2%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は前期比2.3%増加し、実質輸入は同15.3%増加する。不況下の経済で実質輸入が大幅増加するのは不思議な気がするが、理由 は以下のとおりである。まず名目ベースの輸出入は輸出が同-6.2%、輸入が-5.7%と同程度の減少にとどまっている。一方、デフレータは急激な円高と 国際商品市況の大幅下落により異なった動きを見せている。輸出デフレータが同-8.3%下落するが、輸入デフレータは円高に加え国際商品市況の急下落によ り同-18.2%と輸出デフレータの下落幅を大きく上回っている。このため、実質純輸出は前期から大幅に縮小し、実質GDP成長率に対する寄与度は -1.3%ポイントと大きなマイナスの貢献となる。
    2009年1-3月期の実質GDP成長率については、内需拡大は小幅にとどまり、純輸出は引き続き縮小するため、前期比-0.7%、同年率-2.9%と予測している。この結果、2008年度の実質GDP成長率は-1.1%となろう。
    このように、2008年度の経済成長率は4-6月期の前期比年率-3.7%、7-9月期同-1.8%に続き、年度後半もマイナス成長が持続し、当面は回復の展望が描けない厳しい状況となっている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <NBERの苦しいリセッション宣言‐significant な落込みが a few months 続くこと‐>

    12月1日に全米経済研究所(NBER)の景気基準日付け決定委員会は2001年3月から始まった今回の景気拡大が2007年12月に終わり、リセッショ ンに入ったことを宣言した。通常のリセッションの定義は2四半期連続しての実質GDPのマイナス成長であるが、NBERはリセッションを「経済全体におけ る景気活動のsignificant(?) な落ち込みが、a few months (2,3ヵ月?)以上続くこと」と定義し、それらは生産、雇用、実質所得、その他の経済指標に表れると付け加えている。リセッションを定義するときは、 significantなどと言う恣意的な言葉は使わないほうがいい。超短期モデル予測は2007年12月から2008年4月まで景気がスローダウンして きたことは認めるが、景気は2008年4月-6月に急速に拡大していたことを示している。実際に2008年4-6月期の経済成長率は超短期モデル予測とほ とんど同じ+2.8%と高いものであった。
    また超短期モデルは2008年6月以降再び景気がスローダウンしていることをはっきりと認めている。特に2008年10-12月期において、9月12日以 降、支出サイドからの実質GDP成長率は-5%を下回っている。まさに、現在は大不況(グレート・リセッション)とも呼べる状況である。
    NBERがリセッションの公式宣言を行った日に株価のダウ平均が700ドル近く下落したように、NBERの決定は市場に大きな影響を与える。もしも、リ セッションをNBERの定義に従うならば、米経済は2007年12月-2008年4月、2008年6月-現在 とダブル・ディップ・リセッションにあることをNBERは認めることである。むしろ、従来のリセッションの定義に矛盾することなく、リセッション入りを宣 言するならば2008年6月をリセッションの開始年月とすべきである。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年11月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <追加経済対策の評価>
    日本経済にとって、今回の不況は国内発より海外発の要因が大きく影響していることに注意が必要である。すなわち、第一に原油価格の高騰、第二に世界的な信 用収縮が時差を伴いながら複合的に影響している。世界経済はこの2ヵ月急速に悪化し、同時不況の様相を呈している。これに抗するために、主要諸国は先進国 も新興国も金融緩和と財政拡大にむけて協調体制に入っている。
    日本政府は10月30日に追加経済対策を決定した。8月末に決定した総合経済対策の事業規模を大幅に上回り、また1998年に小渕政権が取りまとめた緊急経済対策に並ぶ26.9兆円の事業規模となった。ただし、真水と呼ばれる実際の財政支出規模は5兆円程度である。
    「生活対策」と名づけられた追加経済対策は3つの柱からなる。(1)総額2兆円の定額給付金を中心とする「生活者の暮らしの安心」対策(国費2.8兆円、 事業規模3兆円)、(2)中小企業向け保証・貸付枠の拡大や投資促進策といった企業支援と金融市場の安定化を目指す「金融・経済の安定化」対策(国費 0.6兆円)、(3)住宅ローン減税や高速道路料金引き下げによる「地方の底力の発揮」対策(国費1.6兆円、事業規模26.9兆円)である。
    追加経済対策のマクロ及びミクロベースの効果分析は別の機会に譲るが、2点に絞って整理しておこう。第一に、定額給付金については効果と費用の関係が問題 になろう。KISERのインターネット調査によれば、限界消費性向は0.2を上回らないようである。この結果は、地域振興券の場合と矛盾しないし、米国の 場合も0.2程度とされていることから、あまり効果がなさそうである。加えて実施方法にコストがかさむ場合、その意義は大きく薄れるであろう。第二に、今 回の高速道路料金引き下げはガソリン価格が最高値をつけた7月時点の生活支援といった性格が強く、価格下落が著しい現時点では大いに意義が薄れる。料金引 き下げはむしろ交通渋滞を引き起こし低炭素社会実現の目的からも乖離する。中長期的にこの目的を実現するプロジェクトに使用されるべきである。
    今後、年度末にかけてマイナスないしはゼロ成長が続くと予測される。ただ景気は急激に悪化していくというより、停滞色の濃い期間がしばらく続くと見てよ い。景気にとって唯一の明るい材料は、ガソリン価格が下落し始めていることである。ガソリン価格の下落は消費者心理の急激な悪化を反転させるであろう。加 えて、景気の悪化を防ぐためにも年度末にインパクトのある景気対策が実施されることが重要である。今回の不況は海外発の要因によって引き起こされたため、 小手先の政策より海外発の要因(原油価格、輸出)に影響されにくい経済構造実現に向けての政策が重要となる。例えば、新エネルギーの利用・促進(太陽電 池、電気自動車、風力発電等)という中期的な政策課題に財政資金が集中的に投じられることが、むしろ国民社会に安心と夢を与え理解される経済対策となろ う。

    日本
    <停滞色の濃い期間が続く?重要性を増す景気対策>
    11月17日発表のGDP1次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比-0.1%、同年率-0.4%となった。2001年7-9月期以来の 2期連続のマイナスとなり、日本経済はリセッションにあることを確認した。前年比でも、-0.1%となり2007年4-6月期以来のマイナスとなった。超 短期予測は9月まで1%台半ばの成長率を予測し続けたが、8月のデータが更新された10月以降予測はゼロ成長にシフトした。最終週の予測値は前期比 -0.1%(同年率-0.2%)とほぼ実績どおりになった。
    7-9月期の実質GDP成長率(前期比-0.1%)への寄与度を見れば、国内需要は+0.1%ポイント、純輸出は-0.2%ポイントと、外的ショック型の リセッションが進行している。今回の特徴は、欧米経済の不況の深刻化により実質純輸出が2期連続でマイナス寄与となったことであり、名目ベースでも純輸出 は昨年10-12月期以来4期連続でマイナスの寄与となっている。交易条件の悪化による企業収益の大幅な悪化がこの背景にあり、結果として民間企業設備の 減少が鮮明となってきた。企業部門の低調に比して、民間部門が意外と堅調であったのがもう一つの特徴である。
    今週の支出サイドモデル予測によれば、10-12月期の実質GDP成長率は、内需は拡大するが純輸出が大幅に縮小するため、前期比-0.2%、同年率-1.0%と予測される。この結果、2008年暦年の成長率は+0.4%となろう。
    海外経済の不況の深刻化とともに外需は収縮し、小幅な内需の拡大では相殺しきれない。9-10月に入って景気指標は急速に悪化している。今後、設備投資関 連指標が落ち込む中で、民間最終消費支出の動きが重要なポイントとなろう。景気ウォッチャー調査や消費動向調査の結果が示すように消費者心理が急速に落ち 込んでいる。今後の民間消費がマイナスになる可能性が高まってきているのは要注意である。ただ唯一の明るい材料は、原油価格が年末50ドル(1バレル)に 向けて下落を示すなか、ガソリン価格が下落し始めていることである。ガソリン価格の下落は消費者心理の悪化を反転させるであろう。
    景気は停滞色の濃い期間がしばらく続くと見てよい。景気を悪化させないためにも年度末にインパクトのある追加の景気対策が実施されることが重要である。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <オバマの勝利と金融危機への取組み>

    政権にある党が選挙に勝つためには経済繁栄と平和を社会にもたらしていることが不可欠である。2006年の中間選挙ではイラク戦争の混乱、ハリケーンカト リナへの対応の失敗から共和党は議会選挙で大敗を帰した。今回の選挙では金融危機によって共和党はホワイトハウスのみならず議会においても敗北を帰した。 金融危機が選挙の50日前に表面化したことはマケイン大統領候補にとって不運であった。さらに、彼はブッシュ大統領の不人気の下で戦わなければならなかっ た。雄弁なオバマ大統領候補は6億4,000万ドルもの資金を集め、初の黒人大統領の誕生という歴史的な快挙を成し遂げた。
    しかし、金融危機の終わりが見えない今の状況において、オバマは来年1月20日の就任式前にも以下の3つのことを直ちに行わなければならない。
    できるだけ早く財務大臣とそのチームの指名
    就任後に実施する第2の景気刺激策の発表
    7,000億ドルの金融危機救済プログラムへの参加
    オバマは”変革”をスローガンに次期政権への移行チームを形成したが、それはクリントン政権の旧友の集まりのようであり、全く”変革”とは異なるものに見える。
    オバマ候補の勝利は米国政治にとって転換点になりうる。それはあたかも1980年に共和党のロナルド・レーガンがカーター大統領を打ち破り、その後25年 間の保守的な方向に国民を導いたように。しかし、オバマ新大統領と民主党がキャンペーン中に公約した、経済の立て直し、米軍のイラクからの撤退、健康保険 の加入者の拡大などを実現しなければ、2008年の選挙結果は民主党にとっての長期政権への出発となるのではなく、単に金融危機から米国民が不人気な現共 和党大統領を嫌って一時的に民主党に動いたにすぎないことになる。
    今週の超短期予測からは、今後の経済に対しては悲観的なシグナルが出ている。10-12月期は前期比年率-4.0%とマイナス幅が前期(同-0.3%)から拡大している。このため、2008年の米国の経済成長率は前年の+2.0%から1.3%に減速するであろう。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年10月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <金融危機は世界恐慌につながるか?>

    今月の米国経済や日本経済の見通しが示すように、世界経済は米国発の金融危機により同時不況局面に突入したかのようである。2008年初に 14,691.41円からスタートした日経平均株価は9月25日にはまだ12,000円台を維持していたが、10月1日以降、8営業日連続で下落し10日 には8,276.43円まで急落した。震源地の米国では、10月の第2週だけでダウ平均株価は1,874ポイント下げ、18%の下落と1週間での下落率は 過去最悪となった。まさに金融市場はパニックである。

    しかし、われわれは、世界経済が長期の同時恐慌に突入するとは考えていない。世界経済は、太平洋をまたいで不均衡となっている貯蓄投資構造のリバランス過 程にあり、この調整過程はしばしば荒いものとなろうが、決して底割れすることはないと見ている。すなわち、中国やインド経済は減速が予想されているものの 世界経済のアンカーとなり、不況の深化を緩和させてくれると見ているからである。
    バブル崩壊後の日本経済の例が示すように、確かに米国経済の低迷がしばらく続くのは不可避である。住宅価格が更に下落し、ストック調整が進み、民間貯蓄率が上昇する形で、新たな均衡経路に向けての調整が進むであろう。
    米国発の金融危機がグローバルになり世界経済にとって深刻になった今、日本を除く世界の主要な中央銀行は10月8日にそれぞれ政策金利を50ベーシスポイ ント(0.5%)引き下げ、金融危機への協調姿勢を示した。これには市場は冷たい反応を浴びせたが、10日、11日にワシントンで開かれたG7ミーティン グにおいて、各国蔵相・中央銀行総裁は、グローバルな経済成長を維持するために、信用の流れを回復し、金融市場を安定させるために協調政策をとることに同 意、5項目からなる行動計画を発表した。市場がどの程度これを評価し、またどの程度金融危機の解決に役立つかは不透明であるが、株価のfree fall(暴落)は一旦下げ止まるであろう。
    このように世界各国が危機にすばやく対応し、また世界経済の懐が大きくなっている点は、過去の大恐慌時と決定的に異なる。BRIC’sを中心に発展途上国 の内需を中心とした発展が世界経済を支えるであろう。今月の中国経済見通しで述べられているように、中国政府は、他国経済が減速するなか中国経済が安定を 維持することが決定的に重要であることを十分理解している。中国は必要であるなら経済活動を刺激する財政金融政策を実施するであろう。実際、十分な外貨準 備の蓄積を国際的な金融危機に対して柔軟に利用できるであろう。
    もう1つのプラス材料は原油価格の下落である。2007年に2倍となり2008年前半には高止まりしていた原油価格は、景気減速とファンドの手仕舞いにより現在70-80ドルで推移している。今後も下落基調で推移すれば、企業や消費者のマインドが回復してくるであろう。

    日本
    <7-9月期経済、2期連続のマイナス成長の可能性高まる。戦略的な景気刺激策が必要>

    今回の超短期予測では、8月のデータと9月の一部のデータが更新された。比較的好調であった7月に比して、8月は前月から大幅に悪化した。特に、生産が大 幅に低下し、雇用や民間消費にも悪影響が出てきたといえよう。8月の鉱工業生産指数は前月比3.5%低下し、下落幅は2001年1月以来の大きさとなっ た。輸送機械等の輸出関連業種の減産が影響しているようである。完全失業率は4.2%となり、前月から0.2%ポイント悪化。消費総合指数は前月比 0.2%低下し、2ヵ月ぶりのマイナスである。この結果、7-9月期日本経済は横ばいないしマイナス成長になる可能性が高まってきた。加えて、米国発の金 融危機は株価の暴落、円の対ドルレートの急騰により、年度後半も低成長を余儀なくされそうである。
    日銀9月短観によると、大企業製造業の業況判断DIが2003年6月調査以来のマイナスとなった。原材料価格の高止まり、内外需の減速、加えて金融市場の 混乱の影響で業況判断は大きく悪化している。今回調査は、株価暴落や円レート急騰の影響を反映しておらず、先行き企業のセンチメントはさらに悪化しそうで ある。
    今週の超短期(支出サイド)モデル予測によれば、7-9月期の実質GDP成長率は、純輸出の小幅拡大が内需の小幅縮小で相殺されるため、前期比+0.0%、同年率+0.1%と予測される。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%となる。一方、実質民間住宅は同-3.5%と2期連続のマイナス、実質民間企業設 備は同-1.1%と3期連続のマイナスとなる。実質政府最終消費支出は同横ばい、実質公的固定資本形成は同-1.3%と減少する。このため、国内需要の実 質GDP成長率(前期比+0.0%)に対する寄与度は-0.1%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同0.5%増加し、実質輸入は同-0.4%と減少するため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.1%ポイントにとどまる。
    10-12月期の実質GDP成長率については、内需は小幅増加、純輸出は停滞するため、前期比+0.4%、同年率+1.5%と予測している。この結果、2008暦年の実質GDP成長率は+0.7%となろう。
    主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率-0.3%と予測している。また10-12月期を同+2.4%とみている。われわれは、こ の2週間、成長率予測をゼロないしマイナスと大幅に下方修正している。両モデル平均で見ると、7-9月期の実質GDP成長率は4-6月期の-3.0%に続 いてマイナス成長になる可能性が高くなってきた。すなわち、日本経済はリセッションに突入する可能性が高くなってきたといえよう。ただ、唯一のプラス材料 は原油価格の下落であり、これは企業収益の減少を下支えしよう。一方、実質所得の増加が期待されないなか、民間最終消費支出を落ち込ませないためにも、個 人所得減税はそれなりの意味を持つであろう。減税が実施される年度末には原油価格の下落から消費者のセンチメントが底打ちしている可能性が高いからであ る。減税以外では、予算制約のもと、バラマキではなく将来を展望した戦略的な支出が必要とされよう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <グローバル金融危機にG7は対処できるか>

    米国の金融危機が実体経済にも影響を及ぼしてきた。グラフに見るように、10月10日の超短期モデルは7-9月期の米国経済成長率を前期比年率-1%程度 と予測している。しかも、インフレ率はGDP価格デフレーター、個人消費価格デフレーターでみると同+4%?+6%になるだろう。米国経済は7月半ば以 来、明瞭な下方トレンドを示している。
    米国発の金融危機が世界経済にとって深刻になった今、世界の主要な中央銀行は10月8日にそれぞれ政策金利を50ベーシスポイント(0.5%)引き下げ、 金融危機への協調姿勢を示した。しかし、株式市場はこの協調政策に“ノー”をつきつけた。8日、9日とダウ平均株価は前日比それぞれ189ポイント、 679ポイント下げた。結局その週だけでダウ平均株価は1,874ポイント下げ、1週間での下落率は18%の下落と過去最悪になった。これに対して、その 2日後の10日、11日に開かれたG7ミーティングでは、各国蔵相・中央銀行総裁は、グローバルな成長を維持するために、信用の流れを回復し、金融市場を 安定させるために協調政策をとることに合意、5項目からなる行動計画を発表した。しかし、市場がこれをどの程度評価し、またどの程度金融危機の解決に役立 つかは不透明である。特に、EU諸国の協調行動が実際に行われるかについて疑問がもたれている。過去の例を見れば分かるように、統合に合意するのに30年 かかったように、EU諸国は簡単なことさえ合意するにも時間がかかるからである。
    週明けの13日午前中の米株式市場を見る限り、市場は少なくともG7の行動計画にはポジティブに反応しているように思われる。しかし、この行動計画には具 体的な対策が含まれていないことから全く安心はできない。10月14日(現地時間)には、ブッシュ大統領が発表した金融機関への資本注入を柱とする金融安 定化策を発表したが、投資家の”Greedy(貪欲)”によるバブル化による資産価格の上値と、バブル崩壊後の彼らの”Fear(恐怖)”による資産価格 の底値を予測することは不可能である。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]